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虫歯があるのは、分かっている。
でも、あの音を思い出すと、予約の電話がかけられない。
待合室に座っているだけで、奥から聞こえてくる「キーン」に肩がこわばる。自分の番でもないのに、手のひらが汗ばむ。
——そして、こう思う。「いい大人が、情けない」と。
もし、そんなふうに感じていらっしゃるなら。まずお伝えしたいことがあります。
あの音が苦手なのは、あなたが弱いからではありません。それには、はっきりした理由があります。
この記事では、あの音の正体と、なぜ「脳に響く」と感じるのかを、仕組みからご説明します。そのうえで、当院にできること——そして、正直にできないことも——お伝えします。
1. あの「キーン」の正体は、何なのか1. あの「キーン」の正体は、何なのか
まず、音そのものの正体からご説明します。
あの音を出しているのは、「エアタービン」と呼ばれる器械です。歯を削るための、歯科でもっとも一般的な道具です。
圧縮空気で羽根車を回している
タービンという名前のとおり、内部には小さな羽根車が入っています。そこへ圧縮した空気を吹きつけて回転させ、先端に取り付けた削る刃(バー)を高速で回します。
回転数は、毎分にして数十万回転という領域に達します。これは自動車のエンジンとは比べものにならない速さです。
なぜそこまで速く回す必要があるのか。理由は、患者様のためです。
- 回転が速いほど、弱い力で削れる(歯を押さえつけずに済む)
- 削る時間が短くなり、お口を開けている時間が減る
- 刃が引っかかりにくく、ガタガタという振動が起きにくい
つまり、あの高い音は、負担を減らすために高速で回した「結果」として生まれています。
高い音ほど、人は不快に感じやすい
人の耳は、すべての高さの音を平等に聞いているわけではありません。
とくに敏感なのは、比較的高い音の領域です。これは、赤ちゃんの泣き声や悲鳴といった「危険を知らせる音」を聞き逃さないための仕組みだと考えられています。
タービンの音は、ちょうどその「聞き逃せない」領域に入ってきます。
聞きたくないのに、耳が勝手に拾ってしまう。それは、聴覚が正しく働いている証拠でもあるのです。
2. なぜ「脳に響く」と感じるのか|骨を伝わる音
ここが、この記事でもっともお伝えしたい部分です。
「うるさい」ではなく「脳に響く」。多くの方が、この言い方をされます。
実は、この表現はとても正確です。比喩ではありません。
音が耳に届く道は、2つある
音が内耳(音を感じる器官)に届く経路は、2つあります。
- 気導(きどう):空気の振動が耳の穴から入り、鼓膜を震わせて伝わる、いわゆる「聞く」経路
- 骨導(こつどう):物の振動が骨を伝わり、内耳に直接届く経路
日常で聞いている音のほとんどは、気導です。だから耳を塞げば、たいていの音は小さくなります。
ところが——
歯を削っているとき、振動源はあなたの歯そのものに触れています。
タービンの先端は、歯に直接当たっています。その振動は、歯から顎の骨へ、顎の骨から頭蓋骨へ、そして内耳へと、空気を経由せずに伝わります。
これが骨導音です。
だから、耳を塞いでも消えない
音楽を流しても、耳栓をしても、あの音が完全には消えないと感じたことはないでしょうか。
それは気のせいではありません。骨を伝わってくる音には、耳栓は効かないのです。
身近な例を挙げます。
録音した自分の声を聞いて、「思っていた声と違う」と感じたことはありませんか。
ふだん自分が聞いている自分の声には、骨を伝わってきた音が混ざっています。録音にはそれが入らないため、別人のように聞こえるのです。
タービンの音は、これと同じ経路で、頭の中を直接通っています。
「脳に響く」——その感覚は、身体で実際に起きていることを、正確に言い当てています。
3. 音が苦手なのは、気のせいでも、弱さでもない
もうひとつ、大切な理由があります。
あの音が苦手な方の多くは、音そのものよりも、音と結びついた記憶に反応しています。
音は「予告」として記憶される
子どもの頃、歯科医院で怖い思いをした。痛かった。押さえつけられた。
そのとき、耳には「キーン」という音が鳴っていました。
脳は、この2つを結びつけて覚えます。「この音が鳴る」→「このあと嫌なことが起きる」と。
こうして音は、単なる音ではなく、これから起きることの予告になります。
だから、まだ何もされていない待合室で、すでに心拍数が上がる。これは意志の力でどうにかなるものではなく、学習の仕組みとして、ごく自然な反応です。
「慣れれば大丈夫」ではない
よく「慣れですよ」と言われます。
しかし、嫌な思いをするたびに記憶は上書きされ、結びつきはむしろ強くなっていきます。回数を重ねれば平気になる、というものではありません。
必要なのは、「この音が鳴っても、嫌なことは起きなかった」という経験を、少しずつ積み直すことです。
そのためには、まず何が行われるのかを、事前に知っておくことが助けになります。
何が起きるか分かっているだけで、身体の反応は変わります。「分からないまま音が鳴る」ことが、不安の大きな部分を占めているからです。
4. 当院が、音と不安に対してしていること
ここで、正直に申し上げなければならないことがあります。
タービンの音そのものを、完全に消す方法は、今のところありません。
骨を伝わって届く以上、音を遮る道具では限界があります。「これをすれば無音になります」とお約束することは、当院にはできません。
そのうえで、当院が実際に行っていることをお伝えします。
全診療室を、完全個室にしています
これは、音の話として大きな意味を持ちます。
多くの歯科医院では、診療室が仕切りだけで分かれています。すると、待っている間も、治療を受けている間も、他の方の治療音が聞こえ続けます。
前章でお伝えしたとおり、音は「予告」として働きます。自分の番が来る前から音を聞かされ続けることは、それだけで緊張を積み上げていきます。
当院は全診療室が完全個室です。他の方の治療音は、届きません。
話す場所と、治療する場所を分けています
カウンセリングルームを別に設けています。
治療チェアに座ってから説明を受けるのと、チェアに座る前に落ち着いて話せるのとでは、受け取り方がまるで違います。「これから削られる」という姿勢のまま聞く説明は、頭に入りません。
チェアそのものにも配慮しています
当院の診療ユニットは、座ったときの緊張を和らげるよう設計されたものを採用しています。低反発シートを用い、長時間の診療でも身体が疲れにくいこと、乗り降りがしやすいことを重視しています。
小さなことに思われるかもしれません。けれど「座った瞬間の身構え」は、その後の全身の緊張につながります。
院内の設備については、詳細はこちら:院内設備 でご覧いただけます。
5. 「聞かなくて済む」ようにする、という考え方
ここまで読んで、こう思われたかもしれません。
「結局、音は消せないのか」と。
そのとおりです。ですから当院は、別の方向から考えています。
もっとも確実な音対策は、そもそも削らずに済むことです。
あの音が鳴るのは、歯を削るときです。裏を返せば、削る必要がなければ、あの音は鳴りません。
予防のための空間を、別に用意しています
当院には、予防専用のケアルームがあります。
つまり——定期的なお手入れで通っていただいている限り、あの音を聞くことはありません。
歯石を取り、汚れを落とし、状態を確認する。それだけの通院です。
参考:厚生労働省 e-ヘルスネット「PMTC(歯石除去・歯面清掃)」
順番が、逆になっていませんか
音が怖い。だから行かない。行かないから、虫歯が進む。進んだから、大きく削ることになる。削る時間が長くなり、音を聞く時間も長くなる。そしてまた、行きたくなくなる。
この輪から抜け出す方法は、ひとつです。
痛くなってから行くのではなく、何もないうちに行く。
虫歯の予防については、公的機関も詳しく解説しています。
参考:厚生労働省 e-ヘルスネット「むし歯の予防法(総論)」
当院が「予防歯科と高度歯科治療の2本柱」を診療の信念に掲げているのは、こうした理由からです。予防は、お口を守るためだけのものではありません。歯科医院を、怖くない場所にするための方法でもあります。
詳細はこちら:予防歯科&小児歯科
よくあるご質問
Q1. 音楽やヘッドホンで、音は消せませんか?
- 気導(空気を伝わる音)は減らせますが、骨を伝わる音は残ります。まったく効果がないわけではなく、「気が紛れる」という意味では助けになります。ただ「これで無音になります」とはお約束できません。ご希望があれば、遠慮なくご相談ください。
Q2. 音が怖いと伝えたら、変な顔をされませんか?
- されません。当院にも同じお気持ちの方が来られます。むしろ最初に伝えていただけたほうが、こちらも進め方を変えられます。声をかける頻度、休憩の取り方、その日にどこまで進めるか——調整できることはたくさんあります。
Q3. 眠っている間に終わらせることはできますか?
- 完全に眠るわけではありませんが、当院では笑気吸入鎮静法をご用意しています。鼻から低濃度のガスを吸っていただくことで、恐怖心や緊張を和らげる方法です。作用はすぐに消えます。適応は状態により異なりますので、ご相談ください。
Q4. 途中で「もう無理」となったら、どうすればいいですか?
- 手を挙げていただければ止めます。事前に合図を決めておくこともできます。「止めてもらえる」と分かっているだけで、身体の緊張はずいぶん変わります。我慢していただく必要はありません。
Q5. 痛みそのものも心配です。
- 当院では表面麻酔、電動注射器、細い針を用いるなど、痛みを抑えるための工夫を行っています。詳細はこちら:痛みの少ない虫歯治療 をご覧ください。なお、感じ方には個人差があります。
6. 院長自身、歯科医院が嫌いでした
最後に、少し個人的なことを書かせてください。
当院の院長は、公式サイトの挨拶文でこう書いています。
私自身幼い頃から歯科医院に行くことが嫌でした。
歯科医師になった今も、その記憶は消えていません。だからこそ、こう考えています。
健康を維持してくださいと訴えるのなら、まず、その不安を安心に変える必要がある——と。
私たちが個室にこだわり、音や臭いといった環境面に配慮するのは、設備を誇りたいからではありません。あの椅子に座るまでの気持ちを、知っているからです。
言ってくださって、構いません
「音が苦手です」
その一言を、どうか遠慮なく伝えてください。
恥ずかしいことではありません。私たちにとっては、大切な診療情報です。それを知っているかどうかで、その日の進め方は変わります。
そして、もし今、予約の電話をためらっていらっしゃるなら。
治療のためでなくて構いません。「見てもらうだけ」「話を聞くだけ」でお越しください。カウンセリングルームで、椅子に座る前にお話しできます。
何もされないと分かっている一度目があることが、次につながります。
ご相談は、詳細はこちら:ネット診療予約 からお申し込みいただけます。
本記事の内容は一般的な情報提供を目的としたものであり、診断・治療方針を示すものではありません。音や痛みの感じ方、笑気吸入鎮静法の適応には個人差があります。実際の治療にあたっては、歯科医師の診察をお受けください。
【監修】
喜多デンタルクリニック 院長
喜多 大作(きた だいさく)
2002年 徳島大学歯学部卒業。大阪で12年間の研鑽を積み、2014年9月に徳島市沖浜にて喜多デンタルクリニックを開院。自身も幼い頃から歯科医院が苦手だった経験から、「不安を安心に変えるおもてなし」と「予防歯科と高度歯科治療の2本柱」を診療の信念としています。
徳島市の歯科(歯医者)喜多歯科クリニック
クリニック紹介
詳細は、こちらよりご確認下さい。

クリニック情報
- 医院名:KITA Dental Clinic/喜多歯科クリニック
- 〒770-8052
徳島県徳島市沖浜3丁目64番地 - 電話番号:088-653-8040
- 休診日:水曜日、日曜日、祝祭日
- 専用駐車場有り
- その他:全診療室完全個室、CT完備、etc












